こころの散歩
絶体絶命
絶体絶命
草原を旅していた男が虎に出くわし、追いかけられた。崖っぷちに追いつめられた男はとっさに太い野生のつるの根をつかみ、崖の下へぶら下がった。けれど虎は崖の上から熱い鼻息を吹きかけてくる。男がふるえながら下を見ると、なんとそこにも別の虎がいて、男が落ちてくるのを待ちかまえていた。おまけに崖の上のほうでは、男がつかまっているつるを二匹のねずみがいまにもかじろうとしている。
絶体絶命におちいった男はあたりを見まわした。すると、見るからにおいしそうないちごが手のとどくところに実っているではないか。男は片方の手でつるを握りしめ、もう一方の手でそのいちごを摘みとり、それを食べた。そして言った。「ああ、うまい。」
どんなに深い暗闇にいても、またたとえ死が間近に迫り、一すじの糸でようやく生にしがみついているようなときでも、まわりをさがせばきっと何か楽しいことが見つけられるだろう。
アレン・クライン 著 / 片山 陽子 訳 「笑いの治癒力」(創元社)より
画: 松村 美智子