こころの散歩
聞こえる音は?
聞こえる音は?
ある日アメリカンインディアンが居留地から出かけて、街に住む白人の友達を訪ねました。二人が通りを歩いていると、突然インディアンが立ち止まって友達の肩を叩き「ちょっと待って、ほらこの音が聞こえる?」とささやくように言いました。
白人は、笑いながら言いました。「聞こえるのは自動車の音、警笛、バスの音、他の乗り物の音、それから雑踏の音だけじゃないか。一体何が聞こえるの?」
「どこかこの近くにコオロギがいる。鳴いている音が聞こえるんだ。」
白人は立ち止まって、注意深く耳をすませてみましたが首を振り「君のそら耳だよ。ここにはコウロギなんていないよ。万一いたって、この往来の騒音の中で聞こえるはずがないよ。君にはコウロギが聞こえる?」と言いましたが、インディアンは「そうだよ。ほらちょうど今僕らのすぐ近くで一匹鳴いている。」言うのです。
インディアンは、ある家の蔦がはい上がっている壁の前で立ち止まりその葉を何枚かめくってみるとそこには元気に鳴いているコオロギが本当にいたのです。
白人も鳴いているコオロギを覗き見ま、友達に言いました。「君たちインディアンは我々より耳が良いんだね。」
インディアンは笑って首を振り、ポケットをちょっと探ってから、50セントのコインを取り出し、舗装してある道路にコイントスのように放り上げました。コインがアスファルトの上に落ちて金属音がすると、一斉に沢山の顔が振り向いたのです。インディアンはそのコインを拾い上げておもむろにポケットに戻し「ねえ、50セントコインの音はコウロギの鳴き声よりも大きくはなかったよね。それでも沢山の白人が振り向いた。だけどコオロギの音が聞こえたのは僕一人だけだった。だからインディアンは白人より耳が良いというわけじゃない。いつも気にしているものがよく聞こえてしまうということだよ。」
“Willi Hoffsuemmer”より