こころの散歩

 何年もの間、母は私に「体の中で一番大切な所はどこ?」と質問してきた。ある日私は、聞こえることが大事だと思い、「母さん、それは耳だよ」と答えた。母は「それは違うわ。耳が聞こえない人はたくさんいるけど、その人達は生き生きとしてるでしょ」と言った。
 数年後、私は答えが見つかったと思い、「母さん、見えることはとても大切だから、答えは目だ」と言った。母は私を見、「それは正解じゃないわ。目が見えない人はたくさんいるけど、その人達も元気に生きてるでしょ」と言った。
 何年も私は考え続けた。しかし母は、「違うわ。でもだんだん答えが近くなってきたね」と言うだけだった。
 去年、祖父が亡くなり、私の家族は皆泣いていた。祖父への最後の別れの時、母が私を見つめながら尋ねた。「体で一番大切な所はまだわからないの?」この状況で質問されるとは思いもよらず、私は面食らったが、母は続けた。「この質問はとても大事なの‥‥。今日、あなたはその答えがわかると思う。」
 母の目に涙があふれているのを見て、私は母を抱きしめた。母は私に寄りかかりながら言った。「体で一番大切な所は、あなたの肩よ。」私は問い返した。「それは頭を支えているから?」母は答えた。「いいえ、あなたが愛している人や友達が泣いている時に、彼らの頭を支えるからよ。人は皆、泣く時に支えてくれる肩が必要なの。あなたはこれからたくさんの友達と出会い、友情を育てるでしょう。そして、私が今あなたの肩を必要としているように、誰かが肩を必要とする時、互いに肩を貸してあげることを忘れないで。」

(作者不詳)
画: 泉 類治
  

ページ上部へ戻る