こころの散歩

赤いビー玉の物語

赤いビー玉の物語

 ある小さな村にジム・ミラーさんが住んでいました。新鮮な野菜や果物を売っていましたが、食物もお金も不足していた時期でしたから、物々交換がよく行われていました。

 ある日、私がミラーさんのお店で買い物をしていると、洗濯はしてあるものの穴の開いた服を着た男の子が、えんどう豆をじっと見つめています。そのえんどう豆は、とてもおいしそうで私も見とれていると、ミラーさんとその男の子との会話が聞こえてきました。
 「やあ、バリーこんにちは。元気かい?」
 「ミラーさん。ぼく元気です。このえんどう豆に見とれていたんです。」
 「それはおいしいよ。今日はそれがほしいのかな?」
 「いいえ、ただおいしそうなえんどう豆だなあと思っていただけですから。」
 「少し家に持っていくかい?」
 「でも、お金をもってないんです。」
 「それじゃ、何か交換できるものを持ってる?」
 「一つだけ持ってますけど‥‥。僕の大切な青色のビー玉です。」
 「ほんと? 見せてもらえる?」
 「どうぞ。僕の宝物です。」
 「これだね。うーん。このビー玉が青じゃなかったらね。私は赤いのが好きなんだ。これと同じ赤いの、家にあるかな?」
 「少し違うのなら。」
 「じゃあ、こうしよう。このえんどう豆を持っていきなさい。次に来る時赤いビー玉を見せてもらうことにしよう。」
 「了解! ありがとう、ミラーさん。」

 私は、あとでミラー夫人から、ジム・ミラーさんの隠されたねらいを教えてもらいました。店に来る良い子に対して、ミラーさんは持っている宝物と違う物をねだり、そのつど店の品物を持ち帰らせるということ。こうして、宝物は出させず、毎度店の品物を持ち帰らせるというしくみです。
 しばらくして、私は他の町に引越しました。けれども私はこの店の主人や子供たち、子供たちとの物々交換の話を忘れることはありませんでした。
月日は流れ、何年か経ちました。あるとき、久しぶりにこの村を訪ねますと、ちょうど、ミラーさんのお葬儀にでくわしました。
 通夜会場でのこと。私もお悔やみを言う列に並びました。私たちの前に三人の若者が並んでいました。一人は軍服を着て、あとの二人は白いシャツにパリッとした黒色のスーツを身に着けていました。三人は立派な社会人でした。ミラー未亡人と三人との語り合いの様子は、真心あふれるもののようでした。
 私の番になり、私は未亡人の側に行き、自分が何者であるか、そして何年も前に私が聞いたビー玉の話をしました。すると未亡人の目が急に輝き、私の手をとり棺の方へ連れて行ってくれました。
 「今帰った三人の若者はあの頃の良い子たちです。彼らは楽しい物々交換への感謝の気持ちを話してくれたところです。今、ジムはビー玉の大きさや色について違う物をねだれません。彼らは、やっと支払えたのです。」
 続けて夫人は私に言いました。
 「私たちはお金持ちになったことは一度もありません。けれども今、ジムは世界中で一番すてきなお金持ちでしょう。」
 夫人は、ミラーさんのもう動かない指をやさしく開きました。指の間にはこの上なく美しい赤いビー玉が輝いていました。

(作者不詳)
画: 泉 類治
  

ページ上部へ戻る