こころの散歩

転んでしまった信一君

転んでしまった信一君

小学校3年生になった、信一君が、下校してきます。正雄君や和弘君と途中まで一緒でしたが、それぞれ家が近くなったので、一人一人になりました。お母さんに会える喜びで、スキップするように、足早になりました。そのとたん、足元がからまって、転んでしまいました。

「かっこう悪い!」「人前でこんな失敗するなんて!」……気分は落ち込んで、もう、最低です。自分で自分が情けないのです。起き上がる気力なぞ、完全に消えてしまいました。

そこへ、隣の美千代おばさんが通りかかり、身をかがめて、明るく「あら、信一君じゃない。いつまでもぐずぐずしていないで、さあさあ、起きて。起きて。」と励まそうとします。けれども、信一君はなんだか、気持ちを逆なでされたようです。とても、立ち上がる気になれません。

今度は、先輩の達雄君が自転車で通りかかり、ブレーキをかけて止まりました。頭の上の方から声をかけます。「なーんだ。信一じゃないか。どうしたんだよ。元気出せよ。」……信一君は、ますます情けなくなってしまい、いよいよ起き上がれません。

遅く学校を出た仲良しのマミちゃんが、通りかかりました。「あら、信一君だ! かわいそう! 転んじゃったんだ。」そう思い、膝をついて覗き込みながら、「痛くない?」と優しく尋ねます。信一君の目がうるんでいます。恥ずかしそうです。

何かひらめいたように、マミちゃんは信一君の脇に腹ばいになりました。そして、信一君に、にっこりとほほえみかけました。信一君もつられるように顔をほころばせました。マミちゃんは、信一君の手も握ってくれました。温かさが伝わってきます。しばらくしてマミちゃんが「起きようか?」と言ってくれました。起き上がりたくなりました。

信一君は、もう元気です。さっと起き上がりました。

(作者不詳)

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