こころの散歩

難破した人

難破した人

 その男はたった一人ある小さな無人島に流れついたのでした。嵐で彼の乗っていた船が難破したのです。

 「ああ、神様、ここまでありがとうございました。でもどうかお願いです。誰かがここにいる私を見つけるよう助け船を送って下さい!」

 彼は青い海原のかなたを見つめて長い間、一心に祈っていました。
 ……けれども、いくら待っても、その小さな無人島に近づく船などありませんでした。

 半ば希望を失い疲れ果てたその男は、休むために流木で小屋を造りました。ところがある日、食べ物を探して出かけた少しの間にその小屋は火事になって、何もかもすっかり焼けてしまったのです。

 「ああ、神様、なんというひどいことをしてくれたのですか! 私にはもう何もありません……」

 彼は怒りと悲しみにくれて神に祈りました。嘆きながらウトウトしていると夜明け近くになんと島に近づく船の音がきこえるではありませんか。男は大喜びで走って船まで行きました。

 「……でもなぜ私のことがわかりましたか?」

救助船の人は、無人島から立ちのぼる煙を見つけてやって来たのでした。

 そのとき男は神のはからいのみ業に気がついたのでした。

(作者不詳)
画: 伊藤 寿美
  

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