こころの散歩
靴屋と金持ち
靴屋と金持ち
ある所に気楽に暮らしている貧しい靴屋がいました。毎日楽しげに朝から晩まで歌を口ずさみ、窓辺にはいつも子供たちが集まって歌を聞いていました。
隣には大金持ちの男が住んでおり、一晩中お金を数え、朝になるとベットにもぐりこむのですが靴屋の歌のために眠れません。どうしたら靴屋を歌わせないようにできるか考え、ある日、靴屋を自分の家に呼び、小さな鞄を一つ渡しました。驚いたことにその中には金貨が詰まっていたのです。靴屋が家に帰って鞄を開けて見ると、見たこともない沢山の金貨が入っていました。靴屋は時間をかけて一枚ずつ全部数え、窓からは子供たちがその様子をすっかり見ていました。すると靴屋は金貨がなくなるのではないかと不安になり、夜になるとベットの中へ持って入りましたが、それでも心配で眠れません。目が覚めると、鞄を屋根裏部屋へ持って上がりましたが、そこも安全とは思えません。翌朝には、また鞄を下の階に持って降り暖炉の中に隠そうと思いましたが、「待てよ、鳥かごの中の方がよさそうだ。あそこだったら誰も探しっこない。」とそこに決めました。
それでも気にかかり、ついに庭に穴を掘って埋めました。彼は、すっかりお金のことに振り回されて靴を作るどころではなくなり、心配事に囚われて歌も歌えません。最悪なことは、子供たちが近づかなくなったことでした。
靴屋は悲しくなり、遂にお金を掘り起こし、急いでお金持ちの所に持って行き「お返しします。お金のことが心配で病気になってしまいそうです。それに友達も寄り付かなくなってしまった。やっぱり私は前の通りがいいです。」と鞄を返しました。
まもなく靴屋は以前のように楽しく一日中歌を歌いながらの生活を取り戻しました。
“Willi Hoffsuemmer”より