こころの散歩
風外禅師とアブ
風外禅師とアブ
風外禅師が大阪の破れ寺の住職をしている時、ある大商人が悩み事の相談に来ました。風外禅師はその人の話にまるで興味を示さず、一匹のアブが障子にぶつかって落ち、また飛び上がって障子にぶつかって落ちる様を一心に見ているのです。
相談に来た商人がたまりかねて「和尚さんは、よほどアブがお好きと見えますね」と皮肉を言うと、風外禅師はこうつぶやきました。
「あのアブのう。あれは、どうでもあの障子から外に出ようと決めておるようだ。この破れ寺、どこにでも広い出口があるのに、あの障子をめがけて頭をぶつけてばかりおるわい。人間にもそういうものがおるのう。」
「見えないまつげ――幸せになるものの見方」 庭野日敬 著 より