こころの散歩
100ペソ
100ペソ
「パパ、パパは1時間でいくら稼いでいるの?」
はにかみながら、息子は尊敬の眼差しで、仕事帰りの父親を迎えた。
父親は、厳しい表情で答えた。
「そういうことはお母さんにさえ言ってない。疲れてるからいらいらさせないで。」
「でもパパ、お願いだから教えてよ。1時間でいくら稼いでいるの?」 子供はしつこく粘った。
父親は厳しい表情をくずし、「1時間で200ペソだよ」と答えた。
「パパ、ぼくに100ペソ貸してくれる?」と子供は父親にきいた。
父親は激怒し、ぶっきらぼうに言った。「だからお父さんがいくら稼いでいるのか知りたかったのか。ずうずうしい子だ、もう寝なさい。そしてお父さんのじゃまをしないでくれ。」
夜になり、父親はさっき起こったことを振り返り、少し罪悪感を感じていた。もしかしたら、息子は何か買って欲しかったのかもしれない。痛む良心を楽にするために、父親は100ペソを持って息子の部屋へ行き、小さい声で話しかけた。
「もう寝たのか?」
「どうしたの、パパ?」 寝ぼけながら子供は返事をした。
「さっきお父さんに頼んだお金だよ」 父親は答えた。
「パパありがとう。」
子供はそう言い、枕の下に手を入れ、数枚の札を取り出した。
「パパ、これで200ペソだ。パパの1時間をぼくに売ってくれる?」
画: 泉 類治