こころの散歩
サナギ
サナギ
ある朝、庭の木にサナギを見つけました。いまでもよく覚えています。ちょうど殻を破り、蝶になるところでした。
しばらくはじっと待っていました。しかしずいぶんとゆっくりなので、私はイライラしはじめました。急いでいたのです。そこでかがみ込んで息を吹きかけ、暖めてみました。はーっと息をかけ続けていると、普段よりもずっと早く、あの奇跡のような場面が始まりました。
サナギの殻が割れ、蝶がはい出しました。その後に感じたおののきは、生涯忘れえないでしょう。蝶は小さな体を震わせながら、懸命にまだちじれている羽を広げようとしていました。そこで、私はまた身をかがめ、息を吹きかけて手伝ってやろうとしました。つまらないことをしたものです。
蝶は時間をかけて成長することが必要でしたし、羽は太陽のもとでゆっくりと伸ばしていくはずでした。ところが、私の息は、まだ時が来ないうちに、しわだらけの羽を無理に広げさせてしまったのです。悔やんでも遅い。蝶は弱々しく羽ばたきすると、私の手のひらですぐに死んでしまいました。
この小さな蝶のなきがらは、私の良心にことのほか重くのしかかりました。いま、そのわけがよくわかります。大自然の摂理にそむくのは、大きな過ちですから。焦ったり、いらついたりしてはなりません。摂理のリズムに信頼して従うことです。
復活されたキリストは、弟子たちにお現れになり、彼らが十分に成熟する時間をお与えになりました。私たちも一人一人のリズムにしたがって成熟すればそれでよいのです。キリストはお急ぎになりません。
画: ホアン・カトレット